米国国務省IVLP③フロリダ州ジャクソンビル
- しずか 平岡
- 8月28日
- 読了時間: 13分
更新日:9月30日
今回は、第二の訪問都市であるフロリダ州ジャクソンビルで行われたInternational Visitor Leadership Program(米国国務省主催)についてご報告します。フロリダ州には州所得税がないことから退職者が多く住んでいます。ジャクソンビルは、平均年齢が35歳で若い家族が住みやすい街と言われています。

ブログ「米国国務省IVLP①プログラムについて」
ブログ「米国国務省IVLP②ワシントンコロンビア特別区」

市の中心にはセントジョンズ川が流れる(約500km)
日本で一番長い信濃川は367km
ジャクソンビル概要:
面積: 1407㎢(香川県1,877㎢)
人口: 約912,000人
位置: 北緯30度29分(屋久島とほぼ同緯度)
天気: 温暖な亜熱帯性気候/雨季(6~9月頃)
災害: ハリケーン、落雷、高潮、洪水、熱波、山火事
産業:
・州の主要な輸送および流通の拠点であり、東海岸で最も成長している港がある。
・国内で3番目に大きい海軍の拠点となっている。
プロジェクトタイトル:
Emergency Preparedness Planning for Senior Municipal Staff
(自治体上級職員のための緊急事態対策計画)
フロリダ州ジャクソンビルにおける研修テーマ:
・連邦、州、地方自治体の各機関間の連携
・地域のレジリエンスおよび緊急対応の戦略と取り組み
・移動に制限のある人々を緊急時の計画に含めること
・自然災害のある人々を緊急時の計画に含めること
【1】 レジリエンス局 企画開発部-
トピック:
ジャクソンビルの50年レジリエンス戦略について
50 Year Resiliency Strategy
*国連の定義 レジリエンス(Resilience)
ハザードにさらされているシステム、コミュニティ、または社会が、ハザードの影響に抵抗し、吸収し、調整し、適応し、変形し、その本質的な基本構造の保存と復元を含む、タイムリーかつ効率的な方法で回復する能力。そして、リ スク管理を通じて機能する能力。
The ability of a system, community or society exposed to hazards to resist, absorb, accommodate, adapt to, transform and recover from the effects of a hazard in a timely and efficient manner, including through the preservation and restoration of its essential basic structures and functions through risk management.
レジリエンス局企画開発部:
・ゾーニング(都市計画などで各地域を用途別に区画すること)、総合計画、土地利用、交通政策、建築基準および検査等
・ジャクソンビルにおける活動が論理的、安全、秩序正しく、公正な方法で行われることを保証
面会:
Ms. Anne Coglianese(チーフ・レジリエンス・オフィサー)
*主な職歴
・ルイジアナ州ニューオーリンズ市の沿岸レジリエンスプログラム担当
・ルイジアナ州の沿岸マスタープランに関する諮問チームに参加
・ホワイトハウス環境品質評議会所属

内容:
・災害対応および復旧における州および連邦機関、地方自治体と学校、病院、市民団体との連携について(特に、高齢者や障害者、移動に制限のある人々のニーズに配慮)
・現在、安全に暮らせる町であることが必要
(例)
・歩行者・自転車が安心して移動できる場所をつくること
・道路を動かし、洪水を減らす(土地開発規制を詳細にアップデート)
・University of Central Florida等国内外の大学との連携を行っている。
・春先には、市民を対象とした防災情報を伝えるためのイベントや防災訓練を行っている。病院やエネルギー会社等との机上演習も実施。
考察:
第一に、災害に強いまちとはハード面とソフト面から総合的にまちづくりが行われることである。安全かつ快適な街を整備していくと共に、行政と地域が協働して地域の減災を進めることが求められる。
第二に、災害時に錯綜する誤情報によって混乱を招かないように、行政は正確な情報を適切なタイミングで発信することが求められる。ただし、Ms. Anne Coglianeseによると、発信の仕方(頻度や内容)によっては混乱を招く可能性があるため、十分に配慮が必要であるとのことであった。
【2】 Duval Community Organizations Active in Disaster(COAD)
トピック:
地域社会が新たな取り組みを考案し、プログラム上のリスクを特定し、包摂的で説明責任のある、生産的な目標達成に向けたシステムを確立する方法について
Duval Community Organizations Active in Disaster (COAD):
政府、非営利団体、企業の連合体であり、デュバル郡の住民に対し、災害時の備え、被害軽減、対応、復旧をより効果的に支援し、希望をもたらすことを目的としている。特定の未充足のニーズやサービスのギャップに対処する行動に焦点を当てており、あらゆる危機リスクへの認識を高め、準備、緩和、コミュニティのつながりを通じてレジリエンスへのコミットメントを促進する新たな文化を育んでいる。
*郡(County)とは
州(State)と基礎自治体(City)の間にある地方行政区分。1968年、より効果的な行政を実現し増大する公園や土地システムの管理を改善するために、ジャクソンビル市とデュバル郡は行政組織を統合した。
面会:
Mr. Teri Ketchum, Member & Previous Board Chair
Mr. Marc Boyd, Member & Red Cross Representative
Mr. Eric Anderson, Member & Northeast Florida Regional Council Deputy CEO
Ms. Clayton Hudgins, Member

内容:
・1881年、米国赤十字社は軍隊への奉仕として始まった。使命はあらゆる行動を通して苦しみを和らげること。災害時には避難所の開設と食糧提供等を行う。
・甚大な被害をもたらしたハリケーン・ハルミン(2016年)とハリケー. ン・イルマ(2017年)後の対応や将来の災害への備えについてディスカッションを行った。
・事前に郡と赤十字の間のミッションを定義することで誤った期待をされないようにする。災害は1つの地域に限定されていないので、郡を巻き込む体制を意識する。
・災害は全てローカルで起きており消防署と共に対応にあたる。米国赤十字社は2時間以内に必要なものを確認し、32時間後にケースワーカーが電話をかける。保険への加入についても確認を行う。ローカルの能力を超えた場合には、国レベルと他のパートナーと協働。
・フロリダ州における多様なコミュニティへの対応を行っている。
(ラテンアメリカ出身の黒人、スペイン語を母語とするヒスパニック、フィリピン人)
・ボランティアは事前にトレーニング(約100コース)を受け、技能レベルを上げる。自発的なボランティアの情熱に感謝するが、正しく表現してもらう必要がある。
・高校の教育課程の中にボランティアがある。大学進学時に奨学金を受けることができる。
・災害後のメンタルケアが課題となっている
所感:
災害時の米国赤十字の果たす役割は大きい。日本においては、原則として市町村が主体となって避難所を設置している。地方公務員の人員不足の中で、大規模災害に対応することは困難である。民間の災害支援団体・ボランティアへの協力要請や連携がどの程度進められているのか、今後調査を行う。
【3】 フロリダ州保健局デュバル郡(DOH-Duval)
トピック:
感染症に関する緊急対策と悲劇的な自然災害(ハリケーンや洪水など)の前後のために備えておくべき最大の健康リスクに対応する上で、DOH-Duvalはフロリダ州の保健局との協定を結んでいる。他にも、University of Florida, UF Health Jacksonville, UF Health Jacksonville, Jacksonville Children’s Commission, Northeast Florida Healthy Start Coalition, Environmental Protection Agency(アメリカ合衆国環境保護庁), Agency for Toxic Substances and Disease Registry(有害物資疾病登録局)と連携している。
フロリダ州保健局:
自然災害の前後において、溺死、けが、一酸化炭素中毒、食中毒などの疾患について監視を行い、住民に対して啓発メッセージを発信している。
フロリダ州保健局デュバル郡:
ジャクソンビルのニーズに応えるため、公衆ケアシステムのリーダー・パートナーになることが組織の役割
面会:
Ms. Chanel LeBlanc, Communications Manager
Ms. Rochelle Civil, Emergency Preparedness and Response Manager
看護師兼防災プランナーとして防災を担当。24時間以内に人員の配置と必要な物資の調達を行う責任者である。

内容:
・物理的なことだけでなく心理的な障害に対しても対応している。トラウマを抱えた復員軍人がいる可能性もあり、人間全体を包括的に捉えて対応するようにしている。
・政府機関や民間部門の能力を体系的に組織化し、支援を提供するためのEmergency Support Functions(ESFs)は全国共通。DOH-Duval は8番目の医療サービスを担当。
Emergency Support Functions:
ESF1 Transportation
ESF2 Communications
ESF3 Public Works and Engineering
ESF4 Firefighting
ESF5 Emergency Management
ESF6 Mass Care, Housing, and Human Services
ESF7 Resources Support
ESF8 Public Health and Medical Services
ESF10 Oil and Hazardous Materials Response
ESF11 Agriculture and Natural Resources
ESF12 Energy
ESF13 Public Safety and Security
ESF14 Long-term Community Recovery and Mitigation
ESF15 External Affairs
・フロリダではハリケーンが一番大きい災害である。毎年町との打ち合わせを行う。災害の72時間前からニーズを見極め、何が必要かを市が表明する。
・大勢のパートナーがおり定期的に打ち合わせを行っている。薬を配付する時には、事前に企業との協定を結んでおり、すぐに手配する準備ができている。
・Incident Command System (ICS)を導入。国内の事件の対応を行い、人員や手順など一つの場所で一元的に行っている。
*災害や事故など緊急事態発生時の組織的対応を標準化し、混乱を最小限に抑えるマネジメント手法。日本においても東日本大震災以降、重要視されるようになったが、あまり普及していない。
・特別なニーズが必要な方については法律で決まっている。障害者については市が担当。医療的ケア児に対する災害時の支援については事前に登録を行っている。毎年春に連絡を取り、再登録を行うかを確認する。こども病院とも連携している。災害時は登録されている子どもの保護者の希望があれば安全な場所を用意する。
考察:
第一に、先進国において標準的とされているIncident Command System (ICS)の導入日本への導入おいて障壁となっていることは何かを明らかにする必要がある。災害対策本部は複数の機関が集まるが、組織間で情報共有を行い、対策を立案した上で速やかに対応する機能が十分に果たされていないという課題と真摯に向き合うことが求められる。
第二に、災害時における「避難行動要支援者名簿」や「個別支援計画」の作成を市町村が行うように県もサポートを行う必要性がある。例えば、医療的ケア児については県内で792名が該当している。個別支援計画の作成は努力義務ではあるが、「誰一人取り残さない防災」を目標に掲げる本県に対して、精力的に取り組むことを求めたい。
【4】Emergency Preparedness Conference for persons with disabilities
(障害者のための緊急時の備えに関する会議)
主催:
ジャクソンビル市障がい者支援課
ジャクソンビル自立支援センター(The Center for Independent Living Jacksonville )
*障がい者支援課
障がいのある人々の生活の質を向上させるために、彼らが直面する様々な障壁に対して取り組み、調査し、解決を試みている。これらの障壁には、交通、住宅、アクセスのしやすさ、雇用が含まれる。
*The Center for Independent Living Jacksonville(CIL)
Community-basedプログラムとself-directed servicesによって障害をもつすべての人が自立した生活に到達できるようにエンパワーするのが使命である。アドボカシー、ピアメンタリーと支援、transition、自立支援と訓練、そして情報と照会の5つのサービスを行う。
トピック:
緊急時の計画において、障害のある人々を考慮に入れ、適切な配慮と注意を確実に行う
Ms. Kara Tucker
早産による脳性麻痺のため歩行困難となった。2019年よりジャクソンビル市の障がい者サービスのチーフを務める。
Mr. Jose Morales
視覚障害者。市長障害者評議会と市長ヒスパニック系アメリカ人諮問委員会に所属。

内容:
〇全体会

パネルディスカッション:
Which agency does what during a disaster?
(災害時にどの組織が何を行うか)

・災害時FEMAとは1時間おきに連絡を取っており、持っている情報については、現場で働いている人になるべく早くに共有する。被災者は正しい情報が流れているかを調べることが大事。
・3日分の必要なもの(食料・ガソリン満タン・保険証)を用意すること。72時間以内に必要な薬を提供する。基本的な医療支援がシェルターで得られる。主治医を事前に知らせること。精神疾患を抱える方にオーダーした薬が届かないことがある。コミュニケーションを取るようにすること。「誰かが言ってくれただろう。」ではなく、自分で報告できるようにすること。「たぶん」ではなく「はい」か「いいえ」で回答すること。
・ペットや盲導犬についても対応を行う。
・認知症の方については事前に症状を共有することで対応できる。
・ハリケーンに備えて木を切っておくこと。災害時は外出をせず、水の近くにも近寄らないこと。
・災害に関するダイレクトメールを送る
〇セッションのテーマ
・災害時の毒物管理と危険
・特別支援登録簿、最寄りの避難所、保管すべき書類、ADAの法的権利
*Florida Special Needs Registry
フロリダ州保健局は、州内の郡保健局および各地方緊急管理機関と連携し、災害時に支援を受けるために特別な支援が必要な方々が地方緊急管理機関に登録するための登録簿を作成。災害やその他の緊急事態に備えるための情報を緊急対応要員に提供。
*障害を持つアメリカ人法Americans with Disabilities Acts
・JEAは嵐に対して何をどのように準備するか
・災害時のマイノリティのためのアウトリーチ
・自ら決定した人生を生きるには?未来への計画について
・防火対策
・食料を育て、自立を育む
・個人の備えと実演(米国赤十字社)


〇基調講演
Action Plan Workbook Emergency Manager, North Central CIL
所感:
第一に、障害者の自立を実現するための学校教育のあり方を見直す必要がある。例えば、ジャクソンビル在住の盲ろう者の方は、幼稚園から高校まで無償で通学し、その後、大学進学のための準備校に入ることができるという。今回お会いしたMs. Kara Tucker やMr. Jose Moraleも十分な教育を受ける機会を得たからこそ、現在、当事者の立場から政策立案を行うことができている。日本においても障害者が十分に社会参画できるよう、教育の側面から見直したい。
第二に、精神疾患を抱えた方に対する災害時のサポートを検討する必要がある。現在、ジャクソンビルでは、個別支援を必要とする障害者のうち、精神障害者の登録が最多であるという。日本においても五大疾病の一つと言われる現在、早急に取り組むべき課題と言えるだろう。
【5】ジャクソンビル市緊急対策課
(City of Jacksonville Emergency Preparedness Division)
トピック:
災害対応および復旧における州および連邦機関との連携。特に、高齢性、障害者、移動に制限のある方々のニーズに配慮した地方自治体、学校、病院、市民団体との連携について。
The Jacksonville Fire and Rescue Department (JFRD):
緊急準備部門は、様々な災害に関する緊急準備のための最新のコンテンツとプランを提供することによって、デュバル郡サービスを提供している。ビジネス継続計画、緊急事態準備ガイド、および家族緊急計画が含まれる。市と郡地域に影響を及ぼす最大の危険を特定することを目的とした対応、復旧計画の策定、予防手段の支援、緩和戦略を実施。
62の消防署および救助施設で2000人の消防士が消防・緊急医療サービスを提供。対象は約2,176㎢にわたる都市、郊外、農村地域の100万人。年間20万件出動。
面会:
Mr. Shannon Nelson, Emergency Preparedness Supervisor
Mr. Chief Steve Riska, Division Chief of Operations Jacksonville Fire & Rescue Department


所感:
第一に、緊急時における初期対応が円滑に行えているかという点である。アメリカでは、911に電話をかけると警察・消防・救急につながる。オペレーターが適切なサービスへ迅速につなげている。日本では、警察と消防の連携が十分に図れているだろうか。救急時間の搬送時間の短縮が課題となっているが、通報から搬送までの間に時間的なロスはないか、今後調査を行う。
第二に、多様性を重視する職場がもたらす効果についてである。アメリカでは、法律に基づき、性別や人種の制限を設けずに採用を行っている。社会の中に様々なバックグラウンドをもつ人が生活していることを考えると、多様な視点をもって対応にあたることができる人員を配置することは大きな成果にもつながる。改めて日本社会を見つめ直したい。












