4月中旬、北海道浦河郡にある「浦河べてるの家」を訪問しました。1984年に設立された精神障害等をかかえた当事者の地域活動拠点です。浦河町の人口は11,453人(令和5年)。札幌駅より高速ペガサス号で3時間45分。全国各地から精神障害の当事者やご家族、医療関係者など多くの方々が訪れます。向谷地生良理事長は40年かけて、当事者の方々が町の中で暮らせる土壌を耕してきました。現在、およそ100名の当事者の方々がグループホームで暮らしながら就労しています。


1959年、浦河赤十字病院には、精神科病床50床が開設されました。1980年代には130床になりましたが、しだいに病床の削減に転じていきました。過疎化と人口減少、看護師不足などの理由から病棟規模が縮小されました。2014年、精神科病棟の閉鎖を決めました。当時、浦河日赤精神神経科部長の川村敏明医師が、地域の精神医療を存続するために「浦河ひがし町診療所」を開院しました。今回は、向谷地生良理事長、川村敏明医師、べてるの家につながるソーシャルワーカー(社会福祉士・精神保健福祉士)、看護師の方々にお話を伺いました。
💻社会福祉法人浦河べてるの家
【向谷地生良理事長】
〇プロフィール
1979年より
浦河教会を拠点に当事者と共同生活を開始

当時研修医として赴任した川村敏明氏に出会う
1984年4月
「べてるの家」と命名

1992年
「べてるの家」にSST(Social Skills Training 生活技能訓練)を導入
生活や病気の苦労や、その背景にある認知や行動上の苦労を具体的な課題としてあげ、ロールプレイをし、コミュニケーションの練習をする場。
2001年頃
「当事者研究」が始まる
誰しもが持っている生きにくさを仲間と共に共有することにより、研究というアプローチから深めていくもの。ユニークな対処方法も生まれる。
〇向谷地先生とのお話から
特に印象に残っているお話は「私たちは許可や理解を得て存在しているのか」という先生からの問いかけでした。昨今は、障害をもった当事者の側の権利(当事者主権)としての自助が主張されるようになっています。市民社会で共有されている「私のことは私が決める」という主張は、障害をもった人たちは侵害される傾向があります。向谷地先生は「苦労は奪ってはいけない。エンパワーメントを(力をつける、自信を与える)」と言います。先生は生きづらさを語ることが、自分を助けると考えます。当事者自身が自分を助けることを助けることが援助者の基本です。
【川村敏明医師】
1981年
浦河赤十字病院で研修医として勤務
1984年
札幌旭山病院アルコール専門病棟勤務
1988年
浦河赤十字病院精神神経科
向谷地生良氏と共に、べてるの活動に携わる
2014年
「浦河ひがし町診療所」開院

〇川村先生とのお話から
1918年(大正7)、東京大学精神医学教室の呉秀三教授(1865-1932)は、「精神病者私宅監置の実況及び其の統計的観察」という論文の中で、「我邦十何萬ノ精神病者ハ實ニ此病ヲ受ケタルノ不幸ノ外ニ、此邦ニ生マレタルノ不幸ヲ重ヌルモノト云フベシ。精神病者ノ救済・保護ハ實ニ人道問題ニシテ、我邦目下ノ急務ト謂ワザルベカラズ」と報告しています。当時、1900年(明治33)に制定された「精神病者監護法」(1950年廃止)によって、警察の許可を得た上で、自宅の座敷牢に精神障害者を閉じ込めておくことになっていました。川村先生は、100年経った今も精神病者は幸せに近づいたかと問題提起をされています。精神科医は、患者の症状を和らげることができそうな薬を処方するといいます。川村先生は「治さない医者」として知られています。人間の豊かさはどこにあるのか。足元を見て、自分をさがし、自分を語る。「こういうサポートが必要」と自ら言えるようになることが必要なのではないかと話しておられました。厚生労働省によると、精神疾患を有する総患者数は400万人を超え、年々増加傾向にあるといいます。私は、すべての人が、メンタルヘルス(こころの健康状態)ケアについて学ぶ機会が必要であると感じています。
【べてるの家】
・過疎化の進む浦河町で、精神障がいを抱えた人たちが、「町のためにできることはないか?」と考えたところからできたのが「べてるの家」
町のためにできること①商売・浦河町の特産品である日高昆布を売る


町のためにできること②病気体験の発信
※社会で生きにくくなった時に「病気」に。生きやすい町について提案。
・平日のプログラム
月 :当事者研究
火・水:作業体験
木 :SST
金 :金曜ミーティング
・「3度の飯よりミーティング」
べてるの家は、励まし合う場所であり、自分を大事にするチーム。
9:30 朝ミーティング
・体調と気分の確認
・当日の予定確認
・各部署より報告
10:00 掃除
10:15 身体のウォーミングアップ
10:30 深い体調・気分ミーティング
11:00 音楽
13:00 当事者研究
・「弱さ」の情報公開
弱さは、人のつながりと、助け合いを育み研究の原動力になる
・「弱さ」という個人情報→みんなで分かち合えば生活情報へ
14:10 休憩
14:30 感想のシェア
15:00 振り返り
15:20 送迎
〇「レッツ当事者研究!」in 仙台
今月15日(土)、向谷地先生が浦河町から仙台へ来られます!向谷地先生から直接「当事者研究」について教えていただく貴重な機会です。私も参加します。一緒に当事者研究を行いませんか?


〇オススメの書籍(他にも多数出版!)
📖 Amazon.co.jp: 弱さの情報公開―つなぐー : 向谷地 生良, 吉田 知那美, 松本 俊彦, 繁田 雅弘, 内門 大丈, 芦田 彩, 最首 悟, 辻 信一, 向谷地 宣明, 内田 梓, すずき ゆうこ: 本
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