今回は、2010年夏に訪れたインドでの体験をもう少し振り返りたいと思います。インドへのひとり旅は決して容易なことではありませんでした。最初に訪れたムンバイの人口密度は東京23区の2倍にあたります。人、人、人。人ごみにもまれながら、ひとりでこの町を歩いていると、ふと私は何者なのかと感じるようになりました。この国において私の存在を証明するものは何か。そのようなことを考えながら旅を続けました。

ムンバイから約600km先にあるゴアを訪れました。かつてポルトガル領であったゴアはキリスト教徒の割合が高く、最もインドらしくない地域と言われています。ある日、私の身を案じたインド人のご夫婦が声をかけてくださいました。そして、一日中、ご夫婦の間に挟まれて過ごすことになりました。見ず知らずの私を受け入れてくださったお二人には感謝の念に堪えません。

サン=テグジュペリの『星の王子さま』の中で、王子さまが最初に立ち寄った惑星の王様のことを思い出しました。自分の権威を守ることに必死なひとりぼっちの王様。私たち人間は、学歴、肩書、ハイブランド品などで身を固め、自分の価値を高めようとする傾向があります。しかし、それら全てを置いて他の星に旅立ち、誰かに出会う時、初めて私たちは本来の自分に出会うのではないのでしょうか。インドへのひとり旅は、私にそのようなことを気づかせてくれました。
